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October 23, 2004

宣戦布告

1990年代の前半に流行した漫画に、沈黙の艦隊というのがあった。
いま読み直してみると、それなりに面白い。

日本の政財界がひそかに建造し米海軍所属とした原子力潜水艦が独立を宣言し、類い稀なる操艦技術によって米ソの艦隊をバッタバッタとなぎ倒し、国連を舞台に世界政府の樹立を求めるというストーリーの劇画である。

冷戦の末期に描かれただけあって、核を保有する大国が軍隊を差し出せばそれで世界政府が実現するという明解な世界観が根幹になっている。そのなかで日本は、軍事に否定的な感情を抱く国として、独立した原潜国家やまとを潰そうとする米ソのはざまのなか、自衛隊の指揮権を国連に差し出すことで政軍分離を率先する。

…て、これって日本政府がイラクに自衛隊を送ったりして、海外派遣がリアルになった現在では逆に描けない理想像だよな〜、と思う。
それに大国が軍隊さしだしたって、アルカイダみたいなテロリスト集団とか、ルワンダで起きたジェノサイドとか、北朝鮮の拉致のような国家的犯罪とか、現実にその後の世界を覆った危機的状況には、“The Silent Service”構想じゃなんら太刀打ちできまい。

連載の初期はまだバブルが崩壊していない頃で、日本は米国に従属しちゃだめだ、という気運も強かったのだろう、強硬に対立する米国に、暴言を吐く官房長官などが出てくる。いまとなっては根拠のない自信が、当時の日本にはあったのだなあ、と振り返ることができる。ああ、よい時代であったな。

ということで、ある種の状況を背景に作られた作品というのは、その旬な時期を過ぎると陳腐化してしまう。…ように見えるものだけど、しかし読み返すとやはり面白い作品は面白い。なぜか。
それは作品自体が優れているからというものもあるし、もう一つの読み解き方としては、反映された内容が、むしろいまは忘れ去ってしまった過去の論点を知り得るものとして価値が出るのだ。その時、何がリアルに受け取られていたのかを伺い知ることができるのだ。

DVDを借りて来て見た宣戦布告も、現代のある種の状況を背景に成立した作品であった。
しかし状況をストレートに描き過ぎたせいで、沈黙の艦隊のような名作として後世に残るかというと、それは大いに疑問を呈してしまう。

いわゆる有事立法の成立が、着実に進んでいるだけあって、この映画の内容はすぐに過去のものになってしまうだろう。上映後2年たっての鑑賞だが、既にいくつかのシーンは懐かしさを感じさせる。

ところで、沈黙の艦隊と同じく、過去のある時点において見えた、もしかするとありえた日本を描いた作品として僕が好きなのは、機動警察パトレイバー劇場版ですね。80年代の好景気が永続していたらありえたかもしれない東京の大規模再開発の想像図を、明瞭に見せてくれる。

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