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February 04, 2005

解夏

「貴殿の文章にはうんざりさせられますが、それでも私は貴殿が書き続ける自由は命をかけて擁護します」。

フランスの思想家ボルテールが書いたと言われる一文だ。一般に“言論の自由”の本質を端的に表した文言として語られている。
…といっても、実は僕はボルテールという人のことをよく知らない。それでも、どこかで目にした覚えがあるので、これはそれなりに有名な言葉だと言ってよいんだろうと思う。

最近注目の世間のできごとの一つに、朝日新聞が報道の端緒を切った、いわゆるNHK番組改編問題がある。

僕はかつて就職活動の折に一瞬、報道という職業を志し、朝日新聞社も日本放送協会も両社受験した(そして両社とも落ちた…(T T) )。そんな身としては少なからず耳目を傾けさせる事件ではある。

で、この問題に関する一連の報道を眺めていて、どこかで読んだ冒頭の言葉が頭に思い浮かんだ。
誰の発言だったかと思い、インターネットで検索してボルテールの名前に行き着いたわけだ。

この言葉の通りに世の中が実践されれば理想的なのだろうけど、なかなかうまくいかない。今回の事件がまさにそれをよく表している。
とはいえ、ふだんの生活や職業に関係のないことについて必要以上に思いを巡らす必然性は、僕の側にもないわけだ。ただ、それでも趣味的に好きなものだから頭の片隅で考えている。
そんななかで、にわかにラストニュースを読みたい気分が沸き上がってきた。

ラストニュースとは…?
これは、10年くらい前に連載されていた猪瀬直樹原作、弘兼憲史作画の漫画だ。ちょうど、ソ連の崩壊や政界再編などで報道が熱かった季節だったと思う。そんな時期に描かれた、放送ジャーナリズムが抱える様々な課題を浮かび上がらせた作品である。
ラストニュースとはこの漫画の舞台となる、わずか11分の報道番組のタイトル。その日の最後、夜11時59分から放送される番組の制作現場を通じて、真実を追い求める人間の姿勢を描く。

さっそく関内のCERTEに出かけて、芳林堂で小学館漫画文庫版全6巻を購入してくる。
ペラペラとページをめくる。

10年前の作品ではあるが、内容は新鮮味を失っていない。というか、この漫画と似たことが相変わらず繰り返されていることに改めて驚かされる。
たぶんマスメディアが抱える課題というのは、いつの時代になってもそんなに変化しないものなのだろう。

日は暮れて、道遠し。

そんななかで今回、とりわけ読みたかったのは、「フリーダム・オブ・プレス」と「圧力」のエピソードだ。

“freedom of press”—。日本国憲法で、GHQ案の本来の趣旨によれば“報道の自由”と訳されるべきだったこの言葉。これが何者かの作為により、たんに“出版の自由”という表現になったという。そしてまた、放送の不偏不党と自由を謳った放送法第1条第2項も、より明解だった原案が玉虫色の現条文に改められた。

あくまでフィクションの体裁の範囲内で、現行の憲法と放送法の制定過程をそれぞれ描いている。
こういうことがあると、かつていちど読んだ時に増してますます面白く読める。

しかし、こういう本が気づくと品切れ、在庫流通のみになっている。読みたい人がいざ読みたい時に実際には読むことができない、という状況はなんとかならんものかいな。
出版の自由が確立されても、読書の自由はまだまだである。
(たまたま、CERTEの芳林堂にあったのはラッキーだった)。


さて、2月4日に近所のDVDショップで、一昨年公開された映画解夏のDVDを買う。

いちどレンタルで借りて来て見てストーリーがよかったのと、長崎の風景が素敵な映画だなあと思った。
(僕は風景が綺麗な映画が好きなのだ)。
映画を見た後には、さだまさし原作の小説を読んだ。さらに言うと同じ原作のTVドラマ愛し君へもレンタルして全話見た。

解夏(げげ)という言葉の響きと意味。失明という苦悩に、日常では聞き慣れない仏教の用語を重ねて解きほぐす。そんなお話の編み方が、生きることの深みを描くことに成功していて巧いと思ったんだよね。
(逆にTVドラマはキモだといえるこの主題がさっくり削られていて、物足りなかった。長崎が舞台ということと、ベーチェット病で失明するという点をのぞけば、全く別の話だな…菅野美穂はよかったけれど)。

そんなわけでお金さえあればDVDを購入してもよい映画だなとは思っていたのだ。
ちょうど酒を飲んだ後で財布の紐が緩んでいた時で、奮発して6,300円の支出なり。

ところで僕の職場の先輩にも、長崎県出身の人が一人いる。
(解夏はまだ見ていないとのことだけど…)。
その人は既に家庭を持ち父親となり、最近東京の近郊にマンションも購入した。そんな彼も、長崎に帰りたいという気持ちはいまだ心の底に強く抱いているらしい。

その彼が東京で知り合った奥さんをかつて結婚直前に長崎に連れて行った時の話を、この前酒の席で聞いた。
実家に赴く途中で、二人きりの時に、九州には住みたくないと涙をこぼされたという。
…いやはや、現実は甘くありませんよね。
愛しているというその気持ちのままに、これから失明する男のもとへ東京から全てを投げ打ってかけてつけてきて嫁入りする。そんなことは、実際には起こるべくもない。あるわけないんだぎゃあ。

ゆえにこの物語は成り立つ。その愛に、見る人が思わず感動するんですよね。
(そして人によっては、我が家も石田ゆり子みたいな嫁がほしかったと思うことだろう…)。
ああ、なんともいい映画だ。

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