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June 26, 2005

交渉人 真下正義

あるいは、ライブドアの公衆無線LANサービスD-cubicに成算はあるのか、というコラム。

まずは交渉人 真下正義について。

えーと。

物語のなかでつかれる嘘は、少なければ少ないほどよい。その世界を成り立たせるためにどうしても必要なたった一つの嘘だけが許される、といっても言いだろう。

そうであってこそ、物語に真実味が増し、それゆえの面白さというものを醸し出すのだと思う。
これはたとえば、時に荒唐無稽と思われがちな、SFやアニメーションなどの作品においても変わらない原則である。

たとえば、平成ガメラの第1作、ガメラ 大怪獣空中決戦は、巨大なカメの怪獣が存在するという一点をフィクションとし、あとはリアリティに徹した。そのおかげで、キワモノ仕立て、あるいはお子様向けに陥りがちな怪獣映画としては、希有な傑作になった。
あるいは機動警察パトレイバーが、警察組織を描くという、思いっきり体制派の内容に徹していることを評価されながら、このロボットが縦横無尽に活躍できるためには電柱がない世界でないとダメだねと喝破されたり…(これはたしかBSマンガ夜話のトークで明らかにされた)。

交渉人 真下正義を見ていて、思わず叫びたくなった一言。それは…。

地下じゃ携帯の電波は届かないんだよぉおお〜っ。

ということ。

地下鉄の駅も最近では携帯を使えるようになってきて、随分と便利になった。
(名古屋の市営地下鉄をのぞいてね…名古屋の事情についてはこの記事を見よ)。
最近では、これは東京の地下鉄の話だけど、公衆無線LANが利用できる駅も増えてきているようだ。
しかしながら、いくらなんでも駅と駅の間の全く地下の区間において携帯が通じるという話は聞いたことがない。ましてや建設中の区間においてをや。

だよね。

でも、と思い直した。
これはたぶん地下でも携帯の電波が通じるという世界の話なのだ。

ところで、上で機動警察パトレイバーというアニメーション作品の名前を出したのだけど、フリー百科事典サイトウィキペティア同作品の解説によると、「踊る大捜査線などでで知られる本広克行などに強い影響を与えており、特に同監督の交渉人 真下正義は本作品へのオマージュが多々あった。」との記述がある。

ほほう〜っ、いったいどんなところにオマージュが隠されているのだろうと思いつつ鑑賞した。
たしかに警察組織の現実を描くという点において、パトレイバー踊る大捜査線は非常によく似た作品である。
SFアニメーションと、刑事ドラマという違いはあるにせよ、だ。

現場の思いと上層部の無理解、それでいて腐らずに事件解決に邁進する人びとの姿。そしてなんだかんだいっても警察が舞台、大前提として登場人物は“反体制”に走ることも、“体制”を解体することもできず、最終的には巨大な“体制”の一部としてどう生きるべきかが説かれる。
両作品は共通点が多いと僕も思うし、パトレイバー踊る大捜査線に影響を与えたと聞いてもなんら不思議には思わない。

鑑賞したところでは、何がオマージュなのか全てを読み取れたとは思えないけど、たしかにこれは、と思うシーンはあった。

カラスだ。

交渉人 真下正義では場面の切り替わりに、よくカラスが飛ぶ。
たしかにこれは機動警察パトレイバー the movieを彷彿とさせますな。あの映画でも、カラスは欠かせない動物だった。
E.Hobaが飛び降り自殺をするシーンでは肩にカラスを連れていたし、エンドでレイバーが箱船の屋上に上がった時もカラスに囲まれていた。

カラス以外のオマージュが何かあったのかというと、ちょっとよくわからないけど。


電波の話。

地下で携帯は通じるのか、ということを記したので、最近聞いた電波に関するニュースのことを書いておこうと思う。携帯とはちょっと外れるんだけど。

ライブドア公衆無線LANサービス参入の話です。

6月15日に、ライブドアの堀江社長は、公衆無線LANサービス「D-cubic」の事業説明会を開催した。
これは、インターネット上のニュースサイトで取り上げられたし、新聞、TVなどの一般メディアでも報道されたようだから、既に多くの方がご存知だと思う。

山手線内に整備された無線LANアクセスポイントが、月額525円で利用できるという、低価格なサービス利用料金の部分に、大きくスポットがあてられているようだ。
また、同社が販売を行なっているSkypeなどのフリー電話ソフトを併用して、携帯電話の代替にあたるようなサービスになるのではないかという期待もされているらしい。

4-88549-812-0実は、僕はこの無線LANという技術にもう9年ばかりもつきあっているんだよね。
(右写真に掲げたの執筆もした)。

同社が描くビジネスモデルがどのようなものか、そこに勝算はあるのか、ということは大いに気になる。
ただ、そこはひとまずおいて、技術的な観点から面的に展開する公衆無線LANというものにどういう課題があるのかを、記しておきたいと思う。

技術面から見て、同社サービスは見込みがあるものなのかどうか。


まず、なぜこれまでに同じようなサービスができなかったのかを、問うてみたい。

Aironet無線LANというものはそもそも国際的に標準化された技術を使い、製品としても市販の汎用品を用いて構築できる。
その点では、実はライブドアの参入に何ら優位性はない。誰でもできてしまうわけだ。

誰でもできることなのに、どうしていままで誰もなしえなかったのか。

いや、これまでにも参入しようとした企業はいた。

まずソフトバンク東京電力マイクロソフトが提携してサービス開始を表明し、後に結局東京電力だけがサービスの継続を担うことになったスピードネット。これは、標準化された技術ではなかったが、2.4GHz帯においてFH方式の無線LAN技術を活用したサービスだった。主に集合住宅を対象としていた。

スピードネットよりもより今回のモデルに近いのは、MIS(モバイルインターネットサービス)だろう。
人脈的には無線ベンチャー企業のルートと、ADSLの先駆者、東京めたりっく通信に関わった技術陣で開始された事業だ。これは標準化されたIEEE802.11bの技術を使い、電柱にアクセスポイントをとりつけサービスを展開しようとしていた。

しかし、どちらも失敗した。

いずれも、マネジメントの失敗や、十分でない規制緩和、一方で競合するブロードバンド技術の登場という要素に囲まれていたのだろう。
ここではそれらの分析を省き、技術的な観点のみ説明する。

つまり、技術の採用や周波数の利用にあたっての制約はほとんどないにも関わらず、面的に展開しようとする無線LANサービスで、成功したモデルはないわけだ。

唯一続いているサービスを見ると、いわゆる“ホットスポット”型のサービスだ。
NTTコミュニケーションズホットスポットや、NTTドコモMzoneなどに代表される、人が集まる店舗やビルなど、特定空間に限定して提供されるサービスである。

これらもビジネス的に成功しているかはわからないけど、技術的には納得のできるモデルである。

なぜなら、無線LANが使う2.4GHz帯は、誰もが利用できる周波数帯。
極端なことをいえば、無線LANに割り当てられた2,400〜2,497KHzは、いわば日本全国で1億2000万人が共有して使っている形になるわけだ。事業者によって周波数が占有される携帯電話などとの大きな違いがそこある。

誰もが使え、しかも限られた周波数帯を効率的に利用するには、それなりの工夫が必要だ。
その工夫の第一はセル(電波の到達範囲)を小さくすることである。セルを小さくし、それぞれのアクセスポイントからのサービス提供範囲を制約すれば、1億2000万人みんなが使っても干渉や混雑は起こらないかもしれない。
逆にセルを広げてしまうと必然的に他人の使っている波とぶつかる可能性が大きくなり、お互いにとってサービス品質が低下してしまうという結果をもたらす。

面的に展開するサービスが残らず、エリアを限定したホットスポット型の事業のみが継続されているという現実。以上を踏まえれば、これは十分に技術的な必然なのである。

ライブドアは、この技術の制約を乗り越える何かをもってサービスに参入するかというと、そうではない。
オープンな周波数帯を利用し、標準化された汎用技術を採用しているということはサービス参入がしやすい反面、つまりそこにはチャンネルの占有や継続的な提供に関して、同社にとって何の優位性も持っていないことを意味する。

技術的な課題の第一である。


堀江社長は、「D-cubicは孫さんの低価格ADSLのモバイル版」と言っているらしい。
でも、ADSLのような有線をベースにした技術と、無線LANのような周波数にのっかる技術じゃ、根本的な違いがあるんだよね。

帯域の拡大に関することだ。帯域の利用について、ADSLは掛け算だけど、無線LANは割り算になってしまうのだ。
こういうことだ。ADSLの場合、基本的にはポート数を増やせば増やすほど、帯域は増える。いまのADSLの最大速度が50Mbpsとすると、50Mbps×ポート数 の式が成り立ち、ポート数を増やせば増やすほど、利用者を拡大できるわけだ。

これが無線LANの計算式では、こうなってしまう。

 54Mbps÷利用者数。

利用者が増えると帯域が減ってしまうのだ。
ADSLでは利用者を増やすにはポート数を増設すればよかった。それに対し、無線LANでは利用者が増えれば増えるほど割り算の形で、帯域が犠牲になってしまうのだ。
あらあら、なんとしたことか。

これが電波というものの現実である。周波数というのは限られた、きわめて貴重な資産だ。もっとよこせといってもムリで、割り当てる権限をもったのは国家のみ。審議会での議論と、法律の改正が必要になる。
そうした現実を前に、この限られたリソースを効率的に使うには工夫が必要になる。

その第一が、上でも述べたようにセルを限定することだ。
電波が届く範囲を限定すれば利用者の頭数を減らすという結果が見込める。これはサービス品質の向上につながる。


そして次に、無線LANの上に音声が載せられるのかという点についても分析しておこう。

ライブドアがSkype製品の販売元になっていることと関連づけて、この無線LANサービスの上で電話としての利用が可能になること——つまり言ってしまえば、格安携帯電話のインフラになること、が期待されている。

ほんまに無線LANに電話なんかのるんかいな。

N900iL実際のところでは、NTTドコモからは無線LAN上でVoIPの通話を実現するFOMA一体型の端末、N900iLという電話機が法人向けに発売されていて、ワイヤレスVoIPの構築はいまシステムインテグレーター各社にとって注力すべきソリューションの一つになっている。

しかし、これもオフィス内という限られた空間で、セルの範囲を限定することを前提とした話。
その前提の上でもかなり品質確保や安定動作の実現に苦労しているという話を聞く。
こうしたSI各社の声を聞くと、ライブドアのように広域に展開する無線LANインフラで、安定した通話ができるかというと困難は多いだろうと思う。

どういう困難があるかというと、面的に展開する場合、物理層の安定が犠牲になっているということです。

端末は、アクセスポイントの直下では54Mbpsで接続する。しかし、もし100m離れたところにある端末があった場合、1Mbpsのリンクレートで接続してくるかもしれない。物理的なリンクが端末ごとに違うのだ。
さらに同じ距離、同じリンクレートのなかでも、ある端末は電波状態(信号の強度やノイズのレベル)がよく、ある端末は悪い、ということが起こりうる。

音声を載せた場合、処理が条件の悪い端末にどうしてひきずられてしまう。
みんながみんな54Mbpsでリンクし、電波状態も良好であれば安定した通話になるかもしれないけど、他の端末が電波状態が悪かった場合、それまで良好だった端末もそのレベルまで落ちてしまうということがあるのだ。

IEEE802.11bを使うN900iLのソリューションの場合、1台のアクセスポイントで面倒の見られる通話数は、7〜9通話くらいらしい。これを越えると、通話している端末が一斉に音質が悪くなるそうだ。
ライブドア無線LANサービスに現実にどのくらい音声の利用者が出てくるのかわからない。ただ、オフィス内での利用よりもセルがより大きく展開しているなかで、7〜9通話という屋内での技術的な上限を越えることはありえないだろう。

音声だけではない。動画の利用も心配のタネとなる。

実は一定時間、ある程度の帯域を占有する使い方に、無線LANは弱いのだ。
なにしろ良好な状態でのリンクレート54Mbps(実効のスループットは20Mbps程度)をみんなで使う帯域共有型のメディア。つまりはシェアドハブだから。

たとえば数Mbps程度の動画でも、複数の利用者が入ればとたんに処理できなくなる可能性が高い。

これが無線LANの現実である。


つまりライブドアのようなサービスモデルに懸念されることというのは、こういうことになる。

利用者が増えれば増えるほど、利用されるアプリケーションがリッチになればなるほど、実は2.4GHz帯の無線LANは限界を露呈してくるものである。
セルが大きくとられていればその分、限界の露呈は速い。

固定通信の上でのブロードバンド環境に慣れたユーザーは、当然無線LANの上でも、同じ使い勝手を期待するこことになる。しかし、無線LANという技術に内在された限界がそれを許さない。
これは、日本全国誰もが使ってかまわないと許された一事業者によって占有できないインフラを使う以上どうしようもできない制約である。いかにお金の力をもってしても、解決は困難だ。


いずれにせよ、もはや2.4GHz帯で本格的なサービスなんてできっこないわけだ。
それは僕の、この技術に関わって来た実感から断言できるし、現に先行した事業者がいずれも成功を見せていないことからも明らかなことである。

ただ、ライブドアがこれらの限界を踏まえた上で事業に乗り出すというのであれば、D-cubicの税込み525円という利用料金の設定は間違いではないのかもしれない。

制限が多いけど、安いからいいでしょ。
そんな感じのサービスになるんだろうな、たぶん。

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