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November 17, 2006

手紙

ラストシーンで、小田和正さんの名曲「言葉にできない」が流れる。

♪あなたに会えて、本当によかった
♪嬉しくて、嬉しくて、言葉にできない

ああ、大学の頃、オフコースをよく聞いていたなあ、とフラッシュバックする。

僕の大学時代といえば、もう13,4年前のことだ。さすがにその頃既にオフコースは一昔前の音楽という範疇に入れられていたんだけど、美しくも切ないそのメロディが、だいたいがアンニュイな気分に囚われていたその頃の僕にはぴったりだった。

はぁあ。やっぱり、ええ曲だなあ。


ここ1、2週間、会社ではたまたま期限つきの仕事が集中して忙しく、残業も遅くなりがちだったんだけど、金曜の夜にはその週に行うべき作業をだいたいメドがつき、落ち着いた休日を迎えられそうだった。

やれやれ、めちゃくちゃ忙しかったな~。でもこれで休みだ~。ふぅ。

そんなふうに思いながら、ネオンの明かりが煌々と灯り、キャバクラの客引きがせわしげに声をかけてくる夜の新橋を歩きつつ、腕時計に目をやった。

急いで電車に乗れば、映画館で9時頃の上映を観られそうだった。よし、行こうと思って携帯で上映中のタイトルを探す。ちょうど観に行きたいと思っていた「ブラック・ダリア」が、その日で終わりだった。うーん。惜しいが、やや疲労気味の僕の脳は、どうも猟奇殺人を受け付けられるモードになっていない。癒しが必要だとするならば、邦画の人情モノを選んだほうがいいだろう。

とすると、「地下鉄(メトロ)に乗って」か「手紙」だろうか。僕は上映の時間が合う「手紙」を選んだ。


うぅぅ…。泣けちゃうねえ。

十代、二十代の頃だったらもっと別の感じ方をしていたのかもしれないけど、三十代になってからは僕のハートもややビビットになってきた。とくに家族モノには弱い。まあスクリーンのなかの登場人物と違って僕の場合、独身の気楽な身の上なんだけど、しかしいい歳してフラフラしているという負い目があるがゆえに、かえって感情を後押しするのかもしれない。

といいつつ、先日鑑賞した「涙そうそう」のように、何も感じさせない映画もたまにあるんだけどね。あれはたぶん僕のライバル妻夫木クンが演じていたというのが大きいのだろう。彼の人生には嫉妬こそすれ、同情や共感を抱かせるものは何もない。おっと話がずれた。

この映画はツボにはまった。


犯罪者の身内とされた弟に立ちはだかる現実と、その差別に満ちた人生のなかでの救いをストーリーとしてよく整理しているように思う。差別を糾弾するような安易な展開はとっていない。苦難の末にハッピーエンドが待ち受けているわけでもない。

それがよかったのだろう。山田孝之クンも、うまく演じていると思った。

主人公は長い彷徨の末、決断を下す。そして非情な思いを抱いて刑務所の兄に宛て筆をとる。そこまで追い込まれる主人公の苦悩と、しかしそれでもなお、断ち切れない肉親への情。心に響いているところに「言葉にできない」のメロディが重なる…。

手紙」、周りの人にもおすすめしうる映画だと思った。僕もマニアックなタイトルばかり会話に出すのではなく、常識的な作品を常識的な言葉で語れるようになるべきなのだろう。そういうきっかけとなりうる、適切なタイトルである。


それにしても、今年は兄弟モノの映画を多く見た。「間宮兄弟」「ゆれる」、そしてこの「手紙」である。なぜ、こう兄弟モノが上映されるのだろう。

たしかに兄弟の間に多かれ少なかれ確執は免れないものだし、それはドラマになる要素を十分はらんでいるものといえる。しかし、兄弟の間の諸問題はべつにいま始まったことではない。

そこで思い返す。兄弟といえば、ここしばらく僕が注目している事例が二組ほどある。それはどこの家族の話かといえば、まず一つは若貴兄弟である。兄弟として持ちはやされ、共に実力力士の道を歩んできたのに、なぜ今はこうもいがみ合うようになってしまったのだろうか。想像力をかきたてられる。

もう一人は皇太子殿下と秋篠宮殿下である。このお二人はべつにいがみあってはいなさそうだが、なにせ家系として背負っているものがきわめて重く、そのなかで長男は長男なりに、次男は次男なりに自負と葛藤を抱いているんだろうなあと思う。

まあ、僕に限らず一般大衆の耳目を集めることになった彼らだけど、しかしそうやって兄弟関連のニュースが世間を騒がせたことが、映画製作に関わる人たちのシナプスをも刺激したのではないだろうか。そして、その成果が今年に入って作品として開花している。そう僕は思ったのだった。

そうでなければ兄弟という全く花のない、どっちかといえばむさくるしくまさに“男臭い”家族の組み合わせに、スポットがこうも当てられる動機が考えられないのである。


どうでもいいけど「言葉にできない」って、冒頭にも記した通りかなりいい曲。♪「あなたに会えて、本当によかった。嬉しくて、嬉しくて、言葉にできない」。

このさびの部分だけ抜き出すと、まさに結婚式にも使えそうな素敵な歌詞(機会があったら使おうと思っているが、機会がない)。そういう文脈でこの「手紙」でも、挿入歌として使われていると思うのだけど。

ただ最初から落ち着いて聞いてみると、実は別れの歌なんだよね、これ。初めて聞くとわかんないと思うんだけど、立派な失恋ソングです。なにせ♪「終わるはずのない愛が途絶えた」って出だしなんだもん。


それを知ってあのラストシーンを眺めるとひときわ意味深なり…。


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