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May 11, 2007

主人公は僕だった

以前から細々と取り組んでいることに、過去録画したVHSカセットの内容をDVDに移し替えるという作業がある。

僕はNHKの教養番組がわりと好きな人間で、とくに大学時代はNHKスペシャルを中心に大型企画をほぼ全て録画していた。だからけっこう膨大な量がある(ちゃんと数えたことないけど100巻は優に越すだろう)。

それらのVHSカセットは実家に残っているので、盆とか正月とかG.W.とか、帰省のたびに何本かを持ってきて、いまの住まいにあるDVDレコーダーとVHSデッキを使って、DVD-Rに焼いていく。単純にダビングするだけでなく、ダビングとあわせてタイトル情報なども入力するから、それなりに手間はかかる作業だ。

昨年から取り組み始めて、いくつかのタイトルをDVDとすることができた。

大英博物館」「美の回廊をゆく」「臨死体験」「大モンゴル」「驚異の小宇宙・人体Ⅱ 脳と心」「戦後50年・その時日本は」「大地の子」「四大文明」、エトセトラ、エトセトラ…。

再生しながらついつい番組を視聴してしまう。僕が録画した番組は1990年代前半のものが多いので再生するのは実に15年ぶりなんてものもある。それだけたてばテープがいかれていそうなものだが、幸いなのか劣化して視聴できなくなったカセットにはまだ出会っていない。

興味深いのは本編より、実は本編が終った後に流れるNHKニュースの断片だったりする。当時は時計のずれなど考慮して、たいてい前後に約1分の余裕を持って予約録画を設定していた。だから番組後のニュースがちょっとだけ入っていたりするのだが、なんとも懐かしいですね。湾岸戦争のニュースがあったり、ゴルバチョフ大統領が出てきたりするので。この時代はまだソ連があったんだなあと思う。

ある時はニュース解説で「安倍氏死去と政局」なんてのも残っていたな。亡くなったのはもちろん晋三さんではなく、お父さんの晋太郎さんのことである。1991年、67歳であった。総理大臣を目前にして…なりたかったんだろうなあ。そして、息子がなると予想していたかどうか。

VHSカセットは実家にまだまだたくさん残っている。この個人的大事業が完了するのはいったいいつのことだろうか。


5月11日の金曜日、職場のSさんより、「私は行けなくなったのでどうですか」と、試写会の券をもらった(どうもありがとうございます)。

それで有楽町のよみうりホールに観に行ったのだが、その映画のタイトルは、「主人公は僕だった」。


 


律儀で几帳面な性格で、数字にうるさく国税庁に勤務する男、ハロルド・クリック。その彼の頭のなかにある日突然、その行動を描写する“声”が聞こえ始める。その声はあたかも、物語を語っているかのようなのだが—。そしてある日こう告げられる。「彼は、自分が死ぬとは知る由もなかった」。

ハロルドは驚いて声をあげる。「おい、僕が死ぬって!? どういうことだ!」。

邦題は「主人公は僕だった」なのだが、原題は「Stranger Than Fiction」というらしい。訳せば、「事実は小説より奇なり」。ふむ。これはこれで劇中の展開をそれなりに物語っているような気もするね。

どちらがいいかは、どっこいどっこいかもしれないけど。


ところで「主人公は僕だった」という題名から連想した作品がいくつかある。

まず僕がまっさきに連想したのが、筒井康隆さんの短編「おれに関する噂」だ。これは、平凡な主人公である“俺”の行動についてある日突然テレビや新聞が報道を始め、ワイドショーのレポーターに追っかけられ…という筒井スラップスティックSFの代表作品である。

しかし「主人公は僕だった」は、まだ発表される前の小説に描かれるという設定なので、だいぶ違う。映画作品でいえば、展開やオチはこれまた全然別だけど、「トゥルーマン・ショー」のほうがアイデアの原点として「おれに関する噂」との共通するものが多いかもしれない。

主人公が自分が小説の登場人物だと知るということで思いつくのは、やはりSF作家の作品なんだけど、小松左京さんの「こちらニッポン…」がある。これは全世界から忽然と人類が消え去ってしまい、ごくごく僅かな人間だけが残される、というお話。いったいなぜ、なにゆえにそのような現象が起きたのか、ということなんだけど、その謎のオチはスミマセン、ここに書いちゃいましたね。この作品では主人公がからくりには気づくんだけど、とくに作家とまみえることはない。主人公と作家は、次元の異なる存在として描かれる。

はたまた、物語の登場人物が現実の世界に飛び出してくるという小説で、井上ひさしさんの「ブンとフン」というのもあった。

主人公は僕だった」が登場人物の視点から物語を作っているのに対し、こちらは作家の視点から物語が作られている。売れない三流作家フン先生が自らの小説で不可能のない大泥棒として記述したがために、小説から飛び出るという不可能を乗り越えてあらわれた、大泥棒ブンをめぐる騒動の物語である。展開はハチャメチャ、ナンセンス、ドタバタで、そしてなんとも愉快な大団円を迎える。


 


さて、今回の「主人公は僕だった」の主人公ハロルド(いかにもいい人の代表、ウィル・フェレルが演じる)。ある時点で自分が小説の主人公として描かれていることを知る。

それはハロルドが訪ねた、文学理論を専門とする大学教授の力を借りて気づくのだけど、設定として特徴的なのはその小説を描いている作家が同じこの世に生きる存在だということが自明であることかな。つまり作家と作中の人物は次元の異なる存在ではなく、同じ街で暮らしていたってこと。

で、教授(これがダスティン・ホフマンなんですね…脇役なのに大物というのがなんとも不思議)とやりとりをするあたりで、どうやって作家を突き止めるのかという推理モノ的な内容になるのかな、とちょっと思ったりもするのだが、さにあらず。全然別の理由で、いとも簡単に作家がわかってしまう。

はたまた、お話が続いてラストが近づくとその教授が「この結末は変えられない。これは最高傑作になる。君は死ぬべきだ」と言い始める。ここはここで、おお、どんな結末なのだ、と思う。思うのだけど、最後まで観続けて思ったのは、えー、その結末のいったい何が傑作なの? ってこと。いや、もっと比類なき、あっと言わせるような、まるでシックス・センスのオチのような感動する展開があるのかも、って期待したんだけど。まあ、そうそうあるわけないよね。

とはいえ、そういう物語の設計的な部分にくちばしを突っ込むのは必ずしも正しい鑑賞法とは限らないよね。お話の前提としてちょっと不思議な設定を施しているけど、これはいたって正統派のヒューマンドラマなのだ。だからそういうまなざしで見ればそこそこの傑作なんだと思う。

自分らしく生きることとか、人を愛することとか、そういうまっとうな感覚を肯定するお話なのだ。

なによりヒロインのパン屋さんアナ・パスカル演じる、マギー・ギレンホールはコケティッシュで笑顔がキュートだしね。こんな娘に馬乗りにされたらたまらんですよ。

アァ…( ;´Д`)


 


登場人物が、水からが何者かによって作られた存在だということに気づく。そういう物語の話をもう少し続けてみよう。

ブンとフン」や「こちらニッポン…」は僕が中学生の頃に読んだ作品だけど、比較的最近読んだものとしては、「ループ」と「神は沈黙せず」があるな。

ループ」は、鈴木光司さんの小説で「リング」「らせん」から連なる三部作の完結編にあたる小説だ。前々作、前作で描かれた現象が、なぜそのような現象が存在する世界になったのかということを論理的に解明している。つまりコンピューターによって作られた箱庭世界だったのだ。そして「ループ」の主人公は、破綻しようとしているその世界を救うためあえてその世界に転生する。それが「リング」「らせん」のあの人物だった…。

と学会の会長として有名な山本弘さんの小説が「神は沈黙せず」である。こちらも、この宇宙は実は“神”の箱庭だったという設定のお話。この宇宙は半径1光年しかなく、そこから先の宇宙は全て投影されたものだった、という事実が明らかになる。全ては“神”の量子コンピューターによって創造された世界だったのだ。

でもってその結果、これまで原因がわからなかった超常現象の謎が解明される(さすが
と学会の会長だけあって、疑似科学に関するウンチクがかなり饒舌である)。さらに登場人物の一人が、次元の異なるその“神”の世界へ転生することを密かな目的に、“神”の目にとまるようなユニークな人物として認識されるよう逸脱した行動を始めるに及んで日本は新たな混乱に至る…。

やっぱり、この手の話はどうしてもSFが多いよね。「主人公は僕だった」は、作中の人物が実在するという現象がなぜ起こるのかという説明がまるでない。だからこれはファンタジーなんだけど、あえてありえることとして記述するためには、量子コンピューターという夢の装置の存在が不可欠だといえるようだ。


 


もしかすると神経衰弱気味の作家、カレン・アイフルのタイプライターが、実はタイプライターの形をした量子コンピューターだったという設定なのかもしれないけど。

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